こんにちは、公認会計士のToshi(@NY_Toshi_Blog)です。
滝川クリステルさんがCMを務めていた、
グレイステクノロジーという会社が粉飾決算により、
株価急落・上場廃止になったというニュースが飛び込んできましたね。
2021年3月期の単独売上のおよそ55%、9億円以上が架空計上だったようです。
これは非常に驚きです。
現在、NYに赴任している身ですが、
こうした会計不正・粉飾決算の話題は、
タイムリーにキャッチアップをしなくてはいけません。
今回、
グレイステクノロジー社の粉飾の事実から始まり、
どの監査法人が監査を担当していたのか、
そして、監査という点から粉飾決算を見破ることが出来なかったのか、
という点について、
この記事では記載していきたいと思います。
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グレイステクノロジーについて

まずはグレイステクノロジー株式会社について理解していきます。
会社概要
2000年8月に国内初のマニュアル制作専門会社として設立されました。
その後、
- 製品マニュアルをはじめとする技術文書の作成、翻訳
- マニュアル配信サービス「e-manual」の構築、運営
- 社内用管理マニュアルの作成
等、国内初のマニュアル専門会社として、
幅広く業務展開を行っている会社です。
取引先としても、
NTTデータやマイクロソフト、アップルジャパン、富士通等、
大型企業との業務提携を行っていました。
2016年に東証マザーズ上場、2018年には東証一部へ市場変更を行っています。
業績推移は以下の通り。

粉飾決算の概要
グレイステクノロジー社は、2016年3月期より粉飾決算を行っていました。
主に以下の三つの不正に分類されます。
- 売上高の架空計上
- 売上高の前倒計上
- 利益操作目的での外注費の架空計上
具体的な手法は特別調査委員会の調査報告書を参照してください。
売上高の架空計上を行った場合、
その売上に対する入金がなく、売掛金が滞留することで不正が発覚するケースが多いですが、
今回のケースでは、
役員自らがストックオプションとして付与されていた自己株式を売却し、
売却によって得た代金を会社に入金していたようです。
結果として、
架空計上→株価の維持・上昇→株式売却による架空売上原資の確保→架空計上・・
という自転車操業になっていたようです。
結果として、架空売上高は右肩上がりに上昇、
2021年3月期に至っては実際売上よりも架空売上のほうが大きいという状況になっています。

担当していた監査法人はEY新日本

ここまでの大がかりな粉飾決算は珍しいです。
こうした事態を受けて、同社の株価は急落。上場廃止に追い込まれています。

グレイステクノロジー社に投資をしていた投資家の気持ちは想像できません。
このような事態が起きないよう、
監査法人が適切に会計監査を行うことが求められています。
グレイステクノロジー社を監査をしていたのはどこなのか?
それは、
EY新日本有限責任監査法人です(以下EY新日本)。
EY新日本は、国内最大級の監査法人であるBIG4の一角を担い、
実質的に監査業界のリーディングカンパニーであるといえます。
EY新日本といえば、近年では東芝の不正会計を見破れなかったとして、
新規業務契約の3か月の停止及び課徴金21億円の納付という行政処分を受けています。
その他、過去にもオリンパス事件において業務改善命令を受けています。
今回の粉飾決算事件において、同様の処分が下されるのか、注視していく必要があります。
不正会計は見抜けなかったのか??

さて、果たして不正会計は見抜けなかったのでしょうか?
私個人の意見としては、
完全に見抜けないかもしれないが、不正の兆候は気付けたのではないか
という感想を持ちます。
不正を隠すための監査対応
同社の特別調査委員会の調査報告書によると、
会計監査による不正発覚を免れるため、非常な狡猾な監査対応をしていたようです。
- 取引内容の虚偽説明
- 入金に関する虚偽説明
- 残高確認状の回答偽装
- 受注内容確認書、受領書の偽装
- 納品物の偽装
- 顧客担当者のメールアドレス偽装及びなりすまし
等、非常に多くの偽装工作が行われていたようです。
会計監査人による会計監査は、強制捜査権を持って行われることはないため、
一般的に監査には限界があると言われています。
特に、上記のような偽装工作が行われると、
不正会計を見抜くことは非常に困難であると言われています。
この点、
EY新日本が不正会計を発見できなかったことに対して、
多かれ少なかれ同情の余地はあると思います。
不正のしっぽは掴めなかったのか?
しかしながら、公認会計士の使命は、
「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与する」
ことであり、
不正・誤謬による財務諸表の重大な虚偽表示を見逃さないような手続きをする必要があります。
果たして、不正のしっぽは掴めなかったのでしょうか?
売掛金回転期間の長期化
監査において、
売上と売掛金の関係を示す「売掛金回転期間」は必ず見るはずです。
BSを見てみると、明らかに売掛金の回転期間が長期化しています。
もともとは2か月ほどの回転期間が、約8か月にまで伸びているのです。

この事実に対して、どのようなアプローチが取られたのか、非常に気になります。
また、営業利益率が異常に高くなっている一方で、
営業キャッシュフローがそこまで増加していない点についても、
どのような分析が行われていたのか、疑問が残ります。
保有株式の大量売却
2020年8月の大量保有報告書において、
創業者であり会長であった松村氏が保有株式を市場外で大量売却していたことが分かります。
前述の通り、
この売却資金を原資に架空売上の計上・入金を行っていたようです。
売却総額は42億円にも上ります。
その結果として、株式保有率は17.5%から9.8%にまで下がっています。
創業者で会長である人物が唐突にこのような売却を行っている点についても、
しっかりとした検討が行われていたのか、疑問が残るところです。
社風について
グレイステクノロジー社は2000年に創業されているのですが、
その前身である日本マニュアルセンターは1984年に創業されています。
創業者は、グレイステクノロジー社の創業者兼会長の松村氏。
なんとこの日本マニュアルセンター、不正会計が発覚されているのです。
不正会計に対するハードルが低かったのかもしれません。
また、調査委員会の報告書によると、
予算達成に向けたパワハラが横行していた、との事実も確認されています。
監査の世界では、「不正のトライアングル」といって、
会社が不正を行うにあたっては以下の三点が揃った時とされているのです。
- 動機
- 機会
- 正当化する姿勢
予算達成するという強い動機、
ワンマンという社風による不正の機会、
そして前身においても不正会計をしていたという姿勢。
このような点からも、
不正の可能性を適切に検討されていたのか、ポイントになると考えられます。
まとめ
ということで、
今回はグレイステクノロジー社の不正会計について考察してきました。
基本的に監査法人は人手不足であり、
また近年の働き方改革も相まって、
監査の品質を保つことが非常に難しくなってきていると思います。
しっかりとした監査・検査が行われるよう、
監査業界全体としての問題であるという風に考えられます。
今後の動向に注視していきたいです。
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